大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所 平成元年(わ)63号 判決

国籍

韓国

住居

群馬県高崎市住吉町一五番地二

会社役員

石在煥

一九一三年五月七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官伊丹俊彦出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金一四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、群馬県高崎市住吉町一五番地二に居住し、「ニュー新光」の名称で、パチンコ遊技業を営んでいる者であるが、所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和六〇年分の実際所得金額は二九一九万六五四七円あったにもかかわらず(別紙1修正損益計算書参照)、昭和六一年二月二六日、同県高崎市高松町三三番地所在の所轄高崎税務署において、同税務署長に対し、昭和六〇年分の所得金額が二七〇万円で、これに対する所得税額が一二万三五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一一二二万四九〇〇円と右申告税額との差額一一一〇万一四〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和六一年分の実際所得金額は六五〇四万五四四九円あったにもかかわらず(別紙3修正損益計算書参照)、昭和六二年三月四日、前記高崎税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の所得金額が二八〇万円で、これに対する所得税額が一一万三九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三三〇四万四一〇〇円と右申告税額との差額三二九三万〇二〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ、

第三  昭和六二年分の実際所得金額は一七二〇万五七五六円あったにもかかわらず(別紙5修正損益計算書参照)、昭和六三年三月一五日、前記高崎税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の所得金額が五七三万七六四〇円で、これに対する所得税額が五〇万一六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四七〇万三一〇〇円と右申告税額との差額四二〇万一五〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の目標)

判示事実全部につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(一二通)

一  被告人作成の答申書(七通)

一  花井雄三及び早川浩(謄本)の検察官に対する各供述調書

一  花井雄三(五通)及び早川浩の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の売上調査書、雑収入調査書、期首棚卸高調査書、仕入調査書、期末棚卸高調査書、租税公課調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、広告宣伝費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、減価償却費調査書、福利厚生費調査書、給料賃金調査書、賃借料調査書、地代家賃調査書、利子割引料調査書、諸会費調査書、除却損調査書、雑費調査書、申告事業所得調査書、譲渡所得調査書、増差所得調査書、

一  高崎税務署長作成の証明書

一  検察事務官作成の電話聴取書

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六〇年分)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六一年分)

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六二年分)

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第三の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、所定刑中懲役及び罰金刑を選択することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一四〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の事情)

本件は、パチンコ遊技業を経営する被告人が、三年間にわたり、売上の一部を除外するなどの方法により、不正に所得を過少申告して、判示の脱税行為に及んだという事案であるところ、被告人は、犯行の動機として、開業資金に供した借金を早期に返済する必要があったこと及び老齢の外国人として今後の生活に不安があり蓄財の必要があったことを挙げるが、いずれもさして酌量すべき事情とは認めがたいうえ、開業後三年間は通常この種の営業に対する税務調査が行われないという判断の下に計画的に本件犯行を敢行している点は看過しがたいところである。また、本件犯行の態様、結果等を検討すると、仮名預金を利用して所得を隠匿し、ほ脱税額は三期合計四八二三万三一〇〇円に上り高額であり、昭和六〇年分のほ脱率は九八・八九パーセント、昭和六一年分のほ脱率は九九・六五パーセント、昭和六二年分のほ脱率は八九・三三パーセントといずれも極めて高率で犯情はまことに悪質である。このような被告人の所為は税負担の公平を害し、善良な納税者の納税意欲を阻害するものとして厳しい非難を免れないところであり、主文程度の科刑はやむをえないところであるが、被告人が本件犯行につき反省の情を示していること、修正申告をして昭和六〇年分と昭和六一年分については全部納付を済ませ、昭和六二年分についても分割弁済の目途がついていること、被告人に同種前科がないこと及び被告人の年令、生活状況等被告人に有利と思われる事情を斟酌して、被告人に対しては今回に限り懲役刑の執行を猶予することを相当と認める。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 清水研一)

別紙1

修正損益計算書

自 昭和60年1月1日

至 昭和60年12月31日

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

〈省略〉

別紙4

〈省略〉

別紙5

修正損益計算書

自 昭和62年1月1日

至 昭和62年12月31日

〈省略〉

別紙6

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例